アメリカ国籍取得の注意点
アメリカ国籍を取得してから既に15年がたった今、過去を振り返ってみると日本国籍を放棄してまでアメリカ国籍を取得するべきであったのだろうか、と後悔の念に駆られます。当時は両親も健在で、先々のことまで慎重に考えていなかったとつくづく実感しています。まさに若気の至りだったと言えるかもしれません。今、アメリカ国籍取得を考慮している方、本当に慎重に検討して下さい。
2024年12月現在、国籍法第14条第1項の定めにより、日本は未だに二重国籍を認めない国です。それでも、国際結婚、仕事など様々な事情でアメリカ国籍の取得を考えている方がいることでしょう。
日本の国籍法第11条1項『日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。』に記載されているように、外国籍を自ら取得したと同時に日本国籍を自動的に失ってしまいます。有効な日本のパスポートを保持していても、戸籍に名前があっても日本の国籍を失っていることになります。また外国籍を取得後2年以内に海外の日本大使館や領事館を通して『国籍喪失届』を提出する必要があります。
まず最初に私が経験したことは、アメリカ国籍取得2年以上たった時のことです。父親が他界し遺産相続のため、司法書士の方が作成した遺産分割協議書を作成している時のことでした。通常であれば日本語で署名し実印を押して手続きを行うのですが、アメリカ国籍を取得しているので、実印ですることはできず署名を公証人(Notary Public)に証明してもらわなくてはならなくなりました。それと同時にアメリカ国籍を取得して2年以内に『国籍喪失届』を提出していなかったため、故意に『国籍喪失届』を提出していないことを宣誓する『上申書』を提出する必要があると言われその書類も作成してもらいました。
カリフォルニア州の日本領事館の開館時間を調べていた時に公証人の証明書も行っていると分かったので、二つの書類が日本語だったため日本領事館だったら問題ないかなと思い、上申書を提出すると同時に遺産分割協議書の署名を公証してもらいました。やはり領事館の方は日本の書類に慣れているので割印の署名も証明してくれました。そして後日遺産分割協議書と公証人からの証明書(Notarized Acknowledgment)を日本に送り、問題なく遺産の手続きを完了することができました。
あれから7年後、今度は母親が他界しました。母親からの遺産相続のため、また日本領事館の公証人に公証してもらおうと思っていたら、司法書士の方から既に日本国籍を喪失しているので、領事館のサービスを利用することはできないと言われました。実際領事館に電話をして確認してみると同じ返答が返ってきました。
えっ、どうしょうと途方にくれました。2、3人の公証人の方と話しをして分かったことは、署名を公証するので書類は何語でも問題ないようでした。ただ今回は司法書士の方から遺産分割協議書とアメリカの現住所、アメリカ国籍取得日、日本での出生、遺産相続人等の情報を含む宣誓供述書(Affidavit)を提出しなければならないと言われ、遺産分割協議書には公証人からの証明書(Notarized Acknowledgment)と宣誓供述書には公証人から別の証明書(Notarized Jurat)を作成してもらい、先週日本に郵送しました。現在問題なく手続きが完了することを願っています。
両親がご健在であれば、遺産相続の手続きの書類等の問題など考えることもないと思います。でも現実起こったことを共有し、何かのお役に立てればいいなと思いました。注意事項として、州ごとに公証人の証明の仕方が違うみたいなので、詳細は公証人に尋ねて下さい。
遺産相続問題以外では、アメリカに住んでいるんだから、選挙にも参加したいと考えアメリカ国籍を取得される方もいるでしょう。選挙だけなら、いいです。しかし、国籍を取得すると裁判陪審員の任務も行わなくてはなりません。
英語を余り理解できないことは陪審員の任務を回避する理由にはなりません。裁判所から通訳の方を用意してくれます。通訳なしで実際裁判の控え陪審員として2、3週間裁判に出席し、検察官、弁護士のやり取りを一日中聞くのは本当に辛かったです。陪審員の控えだったので実際判決の審議には参加しませんでしたが、それでも二度とやらなくてもいいと思えるような経験でした。そして一度陪審員として選択されると毎年のように頻繁に陪審員任務(Jury Duty)の通知が送られてきます。
近い将来、またパンデミックが発生し、日本の国境が閉ざされる可能性が無きにしも非ず。家族に会いたい時に、会いにいけないことの辛さを痛いほど知りました。一個人の見解では、アメリカ国籍取得を急ぐ必要がなければグリーンカード保持者のままでいいと思います。慎重に考慮して下さい。